災害から史料をまもる

  • ごあいさつ

ごあいさつ

Greetings

 とちぎ歴史資料ネットワークは、地域に残る歴史資料を自然災害等から守り、未来に伝えていくことを目的に活動する、ボランティア組織です。歴史資料とは、古文書だけではなく、印刷物・写真・民具など、歴史を伝えるすべてのもののことで、博物館等の所蔵機関だけではなく、民間の個人宅などにも多く存在しています。
 当ネットは、2019年10月の東日本台風(台風19号)で、県内の個人宅に所蔵された歴史資料が被災したことを契機に、その保全活動に取り組む中で設立されました。主な活動として、被災史料の保全作業を行うとともに、こうした歴史資料の救出・保全作業の経験を共有し、被災を未然に防ぐことを目指す活動にも取り組んでいます。
 当ネットには、どなたでも参加・登録ができます。本HPを通して、歴史資料を守る活動に関心・興味をもって頂き、また、身近なところに文化財があることを知って頂けたら幸いです。

とちぎ歴史資料ネットワーク(とちぎ史料ネット)設立宣言

 私たちは、本日ここに、とちぎ歴史資料ネットワーク(通称:とちぎ史料ネット)を設立いたします。

 日本は古くから幾多の地震や風水害を経験してきた国です。近年は特にその頻度が高まり規模も大きくなるなかで、多くの命や日常の暮らしだけではなく、地域や家の歴史を伝える記録なども失われてきました。本ネットワークは、そうした災害から、歴史を伝える記録やモノを救出しようとするものです。救出の対象は、一見してそれとわかる和紙に墨書きの古文書だけではありません。印刷物・出版物や写真・アルバム類、民具など、歴史を伝えるすべてのものを対象とします。考古学、歴史学、民俗学、自然科学など、多様な方法で人びとの営みや地域の特徴を歴史として明らかにするためのすべてのものを、歴史資料すなわち史料と考えます。

 災害時は人命救助と生活再建が最優先です。私たちは、それらが果たされた上で、または果たされるなかで、その大切な命がかつてそこにあり、今ここにあること、そしてそこで日常の暮らしが営まれ、今もその営みが続いていることを、史料を通して歴史として伝えていくことを目指します。復興後、地域の歴史を知る手段が失われることなく、被災前の暮らしを地域の記憶として大切に受け継いでいくことを願うものです。

 令和元(2019)年10月、東日本台風で県内のとある史料が水に浸かったとき、栃木県に史料ネットはありませんでした。史料の所蔵者が助けを求めた神戸の歴史資料ネットワーク(史料ネット)のご尽力により、水損史料は救出されました。その史料は県内で保管され、乾燥・修復作業が始まりました。翌年、新型コロナウィルスの感染拡大により神戸の史料ネット関係者の来県が難しくなると、県内で史料レスキューの経験をもつ有志のご助力を得て、滞っていた保全活動を進めることができました。

 私たちは、一つの史料群を県内外の多くの人たちの手で救出・保全するという一連の経験を通して、被災した史料をネットワークの力で救出する組織の必要性を痛感しました。民間の個人宅などで人知れず現在まで伝えられてきた史料を、所蔵者と行政の力だけで守ることは難しいと言わなければなりません。私たちは、こうした身近にある史料をネットワークの力で守りたいと考えます。史料が被災したとき、その救出に手が回らない、あるいは保全の人手が足りないなど、支援を要する所蔵者や関係機関に、ネットワークを活かして助力・加勢できる体制の構築を目指します。

 もちろん、史料が失われるのは災害時に限ったことではありません。史料が置かれている家屋の建て替えや部屋の改装、所蔵者の世代交代など、社会の変化が急速に進む中で、史料は常に廃棄・消滅の危機にさらされています。災害時だけではなく、日常の暮らしの中でも史料保存に対する理解が深まり、災害に対しても被災前の予防措置が講じられるよう、尽力して参ります。そして、私たちの生きる地域社会が、歴史とともにある心豊かな場所であり続けることを、切に願います。


令和2(2020)年8月7日

とちぎ歴史資料ネットワーク (通称:とちぎ史料ネット)
発起人一同